コーヒーで旅する日本/関西編|緻密な技術でサイフォンの魅力を発信。旺盛な好奇心が生み出すコーヒーコミュニティ。「KUUHAKU COFFEE」

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

街なかの空白をイメージさせる、シンプルですっきりとした空間


関西編の第79回は、兵庫県姫路市の「KUUHAKU COFFEE」。姫路城のお膝元に店を構える店主の寳さんは、イタリアでのエスプレッソ他県を機にコーヒーの世界へ。当初はバリスタを目指すも、ひょんなことからサイフォンの魅力に出合い、独自に技術を追求。今では少なくなったサイフォンとスペシャルティコーヒーの取り合わせで、多彩な豆の個性を提案している。尽きぬ探求心と、サイフォン愛あふれる寳さんだが、店では難しい話は一切なし。肩肘張らずコーヒーを楽しんでもらうことに腐心する寳さんが、空白を意味する、ロゴのカギカッコ「」に込めた思いとは。

店主の寳さん


Profile|寳和輝(たから・かずき)
1992年(平成4年)、兵庫県姫路市生まれ。学生時代、旅行で訪れたイタリアで味わったカフェラテをきっかけにコーヒーに傾倒。大学卒業後、住宅会社に勤務したのち、姫路のUCCカフェプラザに転身し、サイフォンの技術を独自に研究。2019年から「KUUHAKU COFFEE」として、イベントでの出張喫茶の出店や、神戸、大阪での間借り営業を続け、2021年、姫路に実店舗をオープン。2023年には姉妹店となる焙煎所も開店。

バリスタを目指した先にあったサイフォンとの出会い

静かな路地は隠れ家的なロケーション。店の2階はイベントや教室のスペースとして使用

世界遺産・姫路城へ駅からまっすぐ伸びる大手筋。広々とした街路から伸びる脇道に入ると、COFFEEの看板がポツリと見える。うっかりすると通り過ぎそうな場所にありながら、観光客と思しき人が次々と店先に顔を見せる。「時期にもよりますが、海外からのお客さんが占める日もありますね」とは店主の寳さん。カウンターで目を引くのは、熱源の赤い光が照らしだすサイフォン。ドリップやエスプレッソが主流となった、近年のコーヒーショップでは少数派だが、「冷めたときにも味が崩れず。雑味が少ないのがサイフォンの特長。サイフォンもフィルターがいろいろありますが、特にネルフィルターは質感が滑らかになります。かつて喫茶店で使われていたイメージが強いですが、抽出時の拘束時間が短いので、一人で切り盛りする場合も便利なんです」

店のすぐそばに姫路のメインストリート・大手筋が通る


これまで、一貫してサイフォンならではの味作りを追求してきた寳さん。とはいえ、コーヒーに関わるきっかけとなったのは、学生時代、イタリア旅行で飲んだカフェラテだった。「イタリアといってもバールで飲んだのではなくて、ベンダーマシンで淹れたものだったんですが、これがおいしかった。今まで飲んだものは水っぽく、苦い印象があったので、日本でも同じものが飲める場所がないかと思って、帰ってから探し回りました」と寳さん。方々訪ねた末にたどり着いたのは、本連載でも登場した神戸のCoffee Labo frank…。当時、栄町でいち早くコーヒースタンドとして開店したばかりのころだ。そのカフェラテに、イタリアと通じる味を感じて通ううち、すっかり常連に。「コーヒーはもちろん、オールスタンディングのカウンターを囲んで、店主の北島さんやお客さんとワイワイ話せる雰囲気も好きでした。場所もちょうど自宅と大学の間にあって、ここに来れば何か楽しいことがあるかも、と思わせる拠りどころみたいになってましたね」と振り返る。

大学卒業後、一度は会社勤めを経験したものの、コーヒーへの思いは止まず、意を決して転身。地元・姫路のUCCカフェプラザに入り、ここで初めて、サイフォンに触れることとなる。ただ、このときの本人の志向とは、少し違っていたようだ。「最初のきっかけがカフェラテだったので、本当はバリスタを目指したんですが、エスプレッソマシンを扱えるお店が、姫路界隈にはほとんどがなくて。それでも、同じコーヒーを出すならば、おいしくないものは出したくないとの一心で、サイフォンの競技会の動画やチャンピオンの抽出映像を見て、独学でサイフォンの技術を追求し始めたんです」

サイフォンコーヒー(500円)。温度帯で変化する風味を楽しめるのがサイフォンならでは


多彩な豆の個性を引き出す緻密な抽出技術

注文を待ちつつ、実験のような抽出過程を見て楽しめるのもサイフォンの魅力

その後、2019年から「KUUHAKU COFFEE」の屋号で、ドリップコーヒーのイベント出店を始め、1年後には、Coffee Labo frank…と、大阪のカカオ菓子専門店・monpetit via cacaoで、間借りしてサイフォンコーヒーの店を営業。独立を見据え、実践で経験を重ねてきた。「サイフォンを選んでよかったのは、使い手が少なく狭いサークルなので、同業の人とすぐつながれること。競技会のチャンピオンでも身近に話ができて、直接、教われる機会も多かった」と寳さん。このころ、Coffee Labo frank…北島さんら3人が共同で、焙煎機を購入。シェアローストで自家焙煎での味作りにも取り組んだ。

晴れて実店舗として「KUUHAKU COFFEE」をオープンしたのは2021年。ここでは、時季替わりで提案する4、5種の豆のラインナップを、自家焙煎のものに、各地のロースターから仕入れるゲストビーンズを加えて構成。豆の特徴に合わせて、普段使いで飲みやすいホワイトラベル、ちょっと贅沢な味わいのグレーラベル、トップオブトップの希少な豆をブラックラベルと、好みに合わせたカテゴリーを設定している。すでに仕入れ先は10軒を超えており、店頭の顔ぶれは日々変化する。

棚にはゲストビーンズのパッケージがずらり。未知のロースターとの出合いも楽しみの1つ


「基本は味の違いが出るようにそろえてますが、時にはゲストビーンズばかりという日もあります。一人ではローストの幅に限界があるので、自分では出せないバラエティを作ると共に、地域による味の違いも紹介したいので、仕入れ先は原則として県外のロースターのみです。ここは旅行者も多いので、その店行ったことあるとか、あの街ならあそこがおすすめ、といった話もできて、コーヒー好きの裾野を広げやすくするきっかけにもなるんです」

そんな個性派ぞろいの豆の風味を引き出すのが、スマートビームヒーターのサイフォン。この器具が、スペシャルティコーヒーとあまり結びつかないのは、抽出のメソッドが少なく、アジャストする方法がわからないから、という理由も大きい。そんな状況の中で、寳さんは独自に抽出に改良を重ねてきた。抽出過程はあっという間に終わってしまうが、そのわずかな時間に積み上げた技術が凝縮している。粉の攪拌効果をコントロールするため、粉と水は1:13の比率で。細挽きにして短時間に淹れることで、苦味や雑味を抑えるのが基本。さらには、粉の投入のタイミングも、豆によって変えている。

攪拌用のヘラは豆の特徴に合わせて、重さの異なる2種類を使い分ける


「湯が上にきてから投入すると、湯温が若干下がって、抽出効率も下がるので味のムラが出にくい。逆に先に粉を入れておくと湯温が高い状態で触れるので、特に極浅煎りの豆などは、繊細な風味を出しつつ、口当たりもきれいに仕上がります。実は、アナエロビックやインフューズドといった、最新のプロセスの豆はサイフォン向き。20~30秒で一気に抽出することで、発酵由来の独特の香りを抑えつつ、フレーバーと質感がしっかり出ます」。産地や品種、ロースターも異なる豆を淹れ分ける、繊細な感覚は、今も衰えない探求心の賜物だ。

エスプレッソトニック(+レモネード)800円。甘酸っぱいレモンと華やかなコーヒーの香りが好相性


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